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九条琥珀
少女の声は確かに消えていた、だけど、あの顔に指が沈み込むような感触が・・・どうにも薄気味悪い、気持ち悪い、眼鏡を外して何度も何度も目の周りをこする、段々痛くなるがそんな事より、今この不気味な感触を拭い去れればいいのだ。 「もうよせ、赤くってる・・・。」 理人がゆっくり右目の周りを拭うと、ようやく落ち着いてきた。はぁ、っと息を吐く。2・3度目を瞬かせ、今度こそ盛大に崩れ落ちた。 足が竦む、指先に力が入らない・・・・。 小刻みに歯が震え、カチカチと嫌な音が脳みそに響く。 どうして? なんで女の子は、俺の方に? 眼が・・・、『鞠』が欲しいと言いながら、俺の眼を・・・。 髪をかき乱しながら顔を上げる、こんな場所、もう・・・・。 「もう、もう嫌だよぉ・・・・」 「琥珀?」 「後ろ、もうやだ、やだ・・・」 振り返って玄関を見る理人、俺、もう嫌だ、これはないだろう・・・! どうして? 「又か・・・・どうしてこの家の出入り口は消えるんだ!」 玄関の引き戸は綺麗さっぱり消えていた。まるで其処に何も無かったかのように・・・。元々一枚の壁が有るかのごとく、他の部分と違和感が無い。 白く塗られた、壁・・・。 「やだよぉ、ごめんね、ごめんね、理人、ごめん・・・・。」 泣く以外に方法も見つからない、理人を巻き込む気なんてなかったのに、何で入り口という入り口は消える? 擦り過ぎた眼の下は、涙にも焼かれヒリヒリと痛みを訴える。痛み以上に、心が苦しい・・・いっそ、この壁を殴って破壊してしまおうか?血が滲むまで殴れば穴くらい開くかもしれない。 だけど理人は深呼吸をして、俺の頬を軽くはたくと、俺を立ち上がらせた。 「しっかりしろ、お兄さん探すんだろう?一緒に暮らすんだろう?」 「う・・・・ん。」 「じゃあ、泣いても良いけど先へ進むぞ、いいな?」 「進む・・・。」 「そうだ、とりあえず1階をぐるっと回ってみよう。」 「うん・・・。」 不器用なウインクと共に俺の背中をはたく。進む、そうだ、泣いていたって誰も助けに来てくれないし、何も出てこない・・・。ふらふらと理人に寄り掛かかって、ようやく立ち上がる、深呼吸をして回りを見渡す。過去、住んでいた筈の家・・・。何が起こっているか理解に苦しむが、確かに俺はここに『住んで』いた。 玄関から又も一直線に突き当たりの壁が見える、どうやら複雑な構造ではないらしい。出入り口だった場所に背を向けて立つと、左手に階段右手には短い廊下と襖で仕切られたいくつかの部屋、正面は壁・・・。 いや、壁と右手の部屋の間に陰影が見える。おそらく水場があるのだろう、その先はもう何も見えない。 「懐中電灯だけはあってよかったな。」 「うん・・・。」 理人が明かりを灯し、先々を照らすが、廊下の突き当たりを見ても何もない。 住んでいたはずなのに、家の構造に何も覚えが無い、いや、ぼんやりとした部分は少しだけ思い出にあるにはあるが、細かい部分は思い出せない。 いや、十年以上も離れていれば、それが普通なのかもしれない。蝉の『泣き声』、夏の日、暑い、暑い・・・・。 「行くか。」 「・・・・うん。」 俺達は言葉すくなに右手の短い廊下に足をかける。 ぎぃ 1歩 ぎぃ 1歩 古びた木が足の裏に頼りない感触を残し、押し殺した悲鳴のように鳴り響く。 「ぎーぎーうるさいな、これは。」 「・・・うん。」 「琥珀?」 短い廊下を進むとそのまた右手になる部分、丁度玄関があった方角に広い開口部が見える。別段不思議でない造りだが、俺には不思議に思えた。 明るい まるで庭から夏の日差が降り注いでいるようだ。 みーんみんみんみんみんみん、みーんみんみんみんみんみん・・・・・ 蝉が『泣いて』いる 『みーんみんみんみんみんみん・・・・』 『みーん・・・・・ーん』 『何で、泣いてるの?』 『仲間が欲しいからだよ。』 『なかま・・・?』 『そう、でも、琥珀には関係ない。』 『ないの?』 『だって・・・の子は・・・・の・・・。』 『にいさん?』 「琥珀?」 「兄さん!」 その場所には壁しかない。 何処へ?いま兄さんが居た!子供の頃の、兄さんが・・・。 窓が、ここに窓があったんだ! 消えてしまったけど、窓が・・・・、あったのに・・・。兄さんが、居たのに・・・。 「琥珀、どうした?」 「いま窓が!すごく光って明るくて・・・夏みたいに日差しが・・・・俺と兄さんがいて・・・・・あれ?」 「壁だよ、ここも・・・ひょっとしたら障子があったのかもしれないけど」 「あれ・・・・?誰?泣いてたの、仲間が欲しいって・・・蝉が、うるさくて・・・蝉が、仲間をほしがって・・・。」 「落ち着け、何を見たんだ?」 「夏の日で・・・・。」 息を1回だけっはっと吐き出すと、自分自身にも今見たものは過去の記憶ではないかと思えた。過去に、こんな会話をしたのかもしれない・・・。 夏の日に、この家に居た。蝉の『泣き声』を聞いていた。生まれてからずっとずっと・・・。 ずっと?冬には無いはずのそれを? 「ごめん、昔の事とごっちゃになってるみたい」 「ならいいんだが・・・」 そう、昔のことだ、昔だから冬にも蝉の声を聞いた気になってるだけだ。過去が、ごちゃ混ぜになっているだけだ・・・。 無精ひげをなで、理人は一応納得したようだ。下を向いて頭を振っている俺は足元で蠢く湿気に身震いしていた。ここに閉じ込められてからか、それとも初めからか・・・足が思うように動かない、頭も・・・まるで、霞がかかった様に要らない事ばかり考えてしまう。 閉じ込められた。 出られない。 待つのは。 ―死? 夏川理人 「何もないな。」 「うん。」 襖・障子を開け放ち押入れの中まで探っても1階には特に物珍しい物はなかった。 引っ越してしまったのだから仕方ないが、家財道具一式すべて無く、畳も剥がされ床板も露出している。 ここまで来て手がかりらしい物の一つもない。 「ごめんね、理人、疲れたでしょ?ずっと車運転してたし・・・廊下で少し休む?」 「いいや、構わない。」 「でも・・・。」 琥珀が声をかけたのは一階を調べ尽くし、階段へ戻って来たその瞬間だ。俺自身確かに疲れていたが、ここで眠る訳にもいかない、何故だかそんな気分にさせられていた。ゆっくり首を振って、肩をほぐし、伸びをすれば少しだけ疲労も回復する。 琥珀の目は相変わらず、空ろと通常の間を行き来しているようだ・・・。 ひょっとして、元々琥珀は『狂ってる』のではないか? それを周囲に噂されるのを恐れた両親がここから引っ越した、田舎より多少なりとも人間関係の希薄な都会に移り住めば『変わった子供』で済む。 兄は本当にいるのだろうか? いや、写真の二人が兄弟ならば本当に居たんだろう。ただ、死んだこと居なくなった事を認められないだけかもしれない。 しかしそれでも・・・例え琥珀が狂っていようとも・・・・俺たちの前で出入り口が消え去ってしまったのは事実なのだ。 不安・焦り・恐怖 そして・・・琥珀がもし『狂っている』のならば、あの少女を見た俺もすでに『狂っている』のかもしれない。 パシャ 「?あ・・・?」 「水音?」 ぱしゃぱしゃぱしゃ 「さっきの台所か?」 「でも、何もなかったよ?」 「行ってみよう」 「あ、待って、待ってよ!・・・・・あ・・・。」 「琥珀?」 「ううん、なんでもない」 水音も気がかりだが、暗がりで身を屈めた琥珀のが拾ったのは、小さな石ころに見えた。 石ひとつ、放って置いてもいいものを・・・・。 立ち上がった琥珀の眼は、又空ろに戻って・・・いや、なっていた。 「!!」 『理人?』 一瞬琥珀の声が遠くなり、琥珀の後ろに小さな手がいくつもいくつもいくつも見える。 やめろ、やめてくれ! 琥珀は気づかないのか?! 髪を撫で、何かを琥珀に押し付けようとしている病的なまでに白い手・・・ふっくらとした・・・。女性特有の。 手。 「琥珀!後ろだ、後ろ!」 『え?何?理人。』 き こ え な い よ 無我夢中で懐中電灯を振り回した。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もその小さな腕に振り下ろす。 電灯とその腕が触れた瞬間、少しだけ皮膚が沈みこむ感触と、骨の軋む音・・・。 キシュ、ぐちゃり 腕が床に落ちて、2・3度バウンドする。 ぼとり 腕から何かが落ちた。何かは分からない、見たくない、見たくも無いのに眼が離せない見るな見るな見るな! 「理人、一体どうしたの?」 琥珀が俺の顔を覗き込む。何だ?今のは何だったんだ?!どうして琥珀に見えない?俺だけが狂い始めているのか? 空ろな眼で見つめるその表情は落ち着いたままだ。落ち着きすぎて、気味が悪い・・・。いや・・・見えなかったんだ、琥珀は見ていないんだ、だから・・・・。 「大丈夫?」 「ああ。」 体中の穴という穴から汗が噴き出す。鼻の頭を拭えば嫌な臭いとべたつく汗の感触・・・。狂うな、俺は正常だ!まだ、まだあれを怖いと思える。だから、正常だ・・・。 「ところで今のは・・・なんだったんだ?」 「え?今何かあった?」 「ああ・・・・」 カラカラの口の中から言葉を引っ張り出すが、琥珀は不思議そうに足元を眺めるだけで終わる。ときおりその顔は笑顔のように歪むのが、気味が悪くて・・・・。 先程の腕も奇妙では有ったが綺麗さっぱり消えて、いなかった・・・。小さな手が琥珀の足元へ這いずり代わる代わる『何か』を押し付ける。 やめてくれ、もうやめないか! 「琥珀!足元だ!下を見ろ」 「え・・・・?」 俺の声に只ならぬものを感じたのか、今度は眼に正常な光をともして恐る恐る下をみるが、本当に琥珀は見えていないらしい。懐中電灯をふって今まさに俺が目撃している手を照らしているというのに、何一つ動じていない。 「何?・・・何かあったの?」 「動くな!!」 思い切りその手を踏みつけると、みしり、と骨が軋む音がした。うう、気持ち悪い、気持ち悪いが強引に何度もその腕を蹴り付ける。 ぐちゃ べしゃ 「っは。っぁ!」 「理人?」 俺にだけ聞こえるのか、ぐちゃりという音がしてその手はずるずると階段下まではいずると、2階へに上っていき、やがて消え去った。 不審そうな琥珀の視線。 いや、もう消えたのならそれでいい・・・だが、足元を照らす彼のライトの先に、腕が落とした何かが入り込んできた。 丸いものだ・・・。 「なんだ?これは・・・」 指先で触ると、ぶにょりとした感触・・・ぷちゅり、と音がしてずぶずぶ指が沈む。 生暖かいゼリーの中に指が沈み込む、そんな錯覚に陥った。 暖かい、暖かい、暖かい暖かい暖かい暖かい暖かい暖かい暖かいが、これがゼリーであるわけはない! 「うわ!」 気色の悪いそれから指を無理やり引き抜くと、 どろり 大量の何かが指で作った穴からはみ出し、ごぷぅと音を立てる、汚い、汚い気持ち悪い。 「理人?さっきから何してるの?」 「そこの変なもんが・・・・、無い?いや、あったんだよ!丸くて真黒で、指で押したら中はゼリーみたいで・・・・」 「無いよ、そんな『眼球』みたいなもの。」 「・・・・眼球、まあ、そうだな、似てるな・・・・。」 「台所、行くんでしょ?」 「ああ」 ふわりと笑う琥珀の眼は、メガネの奥で綺麗に細められていた。 会話をしているはずなのに、今まで以上に琥珀の細められた眼が・・・・此処ではないどこかを見ているようだ。気になどしていない・・・なにも、なにもかも・・・。 そして、 『眼球』 なぜいきなりそんな単語が出るんだ? 柿羊羹でも、ボールアイスでもいいじゃなか?それとも若い奴はそんな事を知らないのか?丸くて黒い・・・・。 いや、何を疑う。あの少女に目を襲われたからそんなイメージなのかもしれない、彼女の言う『鞠』が『眼球』ならば確かにあの鞠は黒かった。 だから? あの少女・・・・変わった手鞠歌、眼の無い少女・・・。 夜光、夜光・・・・。 「琥珀」 「ん?何?」 「夜光っていうのは、なんだかわかるか?」 電子辞書でも持ってくればよかった。あの少女の奇妙な歌、謎を解く鍵である筈の九条翡翠のメモ・・・・こんな状況ですっかり忘れ去っていた。 「ダイヤモンドだよ」 琥珀が知っている訳は無いと思っていたが、案外あっさり答えが返ってきた。ダイヤモンド?宝石のあれか? 琥珀は又虚空を見ながら、くすくす笑っている。何も見なかったはずなのに、何故琥珀がこうも『狂っている』ように見えるんだ・・・。 「ダイヤの和名は・・・・金剛石だろう?」 「他にも色々あるの、夜光珠もダイヤモンドの和名。金剛石って言うより雅な感じがしない?」 「彼女は金よりダイヤが欲しかったのか?」 「彼女・・・・ああ、あの子。」 琥珀の視線も態度も、随分冷たいものに感じる。彼は一体どうして動じていない?まるで別人のように、細い手首かに繋がっている白い手で長い髪を透く。長くなど無かった筈の髪がいつの間にか腰まで伸びている・・・。 あの子と、親しげに笑う琥珀の瞳は真っ黒で、あの美しい琥珀色ではなく、それでも艶を湛えた、黒い黒い底の見えない瞳・・・。 「金も銀も要らないダイヤが欲しい、それ駄目なら・・・・琥珀?」 「ふふ・・・・」 肩を震わせ、艶やかに笑う琥珀?違う、これは違う! 長い髪、黒い瞳、細い首・・・・白い手・・・。女の、手・・・。 緋色の、着物・・・・。 「金とダイヤの価値なんて人夫々よ。」 「何を?」 何を言い出すんだ?もう顔まで他の者と挿げ替えられたように妖艶な笑みが浮かんでいる。いや、こんな笑みを確かに琥珀は何度も俺に見せていた。 空ろな眼とも、正常な時に見せる眼とも違う・・・。一瞬だけ垣間見えるこの笑みを。 「琥珀に翡翠に夜光、彼女が欲しかったのは夜光なの、それがいないから、琥珀で我慢しようとしたのよ。」 分かる?と小首を傾げる仕草は、とても幼く。妖艶な笑みとの間でアンバランスに揺れる。 ゆらゆらゆらゆら。 「君・・・は、誰だ?」 「僕?そうだねぇ・・・琥珀が琥珀でなくなったら、君はどうする、理人?」 「誰なんだ?琥珀じゃない、それは分かる」 艶やかに笑う彼女、琥珀と似ても似つかない少女がそこに居る。 長い長い髪、真っ黒な瞳、派手で艶やかだがどこか、古臭い緋色の着物・・・。 思わず、じりじりと足が下がる。 たかが女一人じゃないか!何を怖がる? 少し伏せた眼から滲み出る、確信めいた自信の色、艶やかな唇・・・。 綺麗だ・・・。 「まあ、もう少しがんばってみる?どっちが早いか、試してみましょう」 「待て!」 女の唇が俺の頬に触れる、ひやりと金属でも触れたようにつめたい唇・・・。 待て、待つんだ!もう少し、もう少しその姿を消さないでくれ!もう少し俺の傍に! しかし次の瞬間、琥珀は琥珀のままでその場に倒れこんだ。慌てて駆け寄り口元に手をかざす。呼吸はしている、顔が紙のように白い。 なんなんだ、なんなんだ、あの女! 妖艶で、おぞましい程魅惑的な あの女。 「なんなんだ、何なんだ、畜生!」 部屋に入って休むのは気が引けたが、琥珀が気絶しているのだから仕方がない。布団でもあれば良いのだが、押入れには何もないことは先程確認している。玄関から一番近い部屋の隅で琥珀を少し休ませることにした。 しかしなぜこんな事に・・・。 ここへ来たのは単純に謎解きができると思ったからだ、幽霊屋敷は反則だ。しかも九条翡翠の手がかりは一向に掴めない、疑問ばかりが増えていく。 ひゅう 「っ!」 ・・・・・・。 「風、か・・」 ドクン、ドクン。心臓が無理を訴える。風の音にさえ過剰に反応し、傍で寝ている琥珀の手をまるで幼子のようにつかむ自分は滑稽でしかない。 事件の解決なんていう妄想に憑かれて、琥珀の不安と事情を自己満足に利用とした結果がこれか・・・。 いや、もし解決したら琥珀の心が楽になるんじゃないかとは、少しは思っていた。 琥珀もそんなに期待してはいなかったんじゃないのか? しかし、結局たどり着いたのは、不安と恐怖と、謎ばかりのこの家だ。 「琥珀、起きてくれ・・・。もう、一人でここに居るのは耐えられない。」 泣き言を言っても琥珀はぴくりとも動かず、浅い呼吸のまま眠っている。翡翠、彼が何故ここに来たのだ?謎は解けないままなのか? 嫌だ。 俺は行きたいのだ。 そして、この謎に先には。 あの、少女が居る。 翡翠の写真は、確か琥珀が胸ポケットに入れていた。起さないよう、慎重に胸に手を近づける。触れた瞬間、鼓動が指を伝わってくる。 ああ、まだ俺たちは・・・・生きている、生きているなら、前に進める。 『私が私でなくなったら、私はそこで終わりです。 君は後を追ってはいけません。 だけど心配性の君の為に一つだけ置いて行きます。 この思い出は忘れるべき物です。私と一緒に封印してください。 翡翠』 「『私が私でなくなったら』か、これは琥珀みたいに憑かれた状態だってことか?」 おかしな話だ、つい昨日まで幽霊だなんて、テレビの中だけの出来事だったのに。 しかし、今実際に緑の着物の少女と、緋色着物の少女を見た。生きているとは到底思えない二人を・・・・。 どくん。 又心臓が鳴る。だが、この鼓動はなんだ? まるで少年の頃、すれ違うだけで嬉しかったような、あまい疼き。 「しかし少女といい、手といい、この場所で襲われるのは琥珀だけ、やはり琥珀自身か、この家に何かがあるのか。」 無理に声を出して推理する、こうしないと恐怖と頭に上った熱でどうにかなってしまいそうだ。 出られない、出入り口はない、味方も居なくなるかもしれない、そして、最後は・・・・自分も居なくなるのかもしれない。 「くそ!」 琥珀は起きない、あれからどれだけ経っているのもわからない、左手で琥珀の右手を握るが、まるで雪のように冷たい、雪のように白い肌、冷たい唇・・・・琥珀はあの妖艶に笑う女とどういう関係なんだ? 少女は夜光を欲しがった、夜光はダイヤ、ダイヤ欲しがっていたのか?いや、ダイヤとは眼のことなのかも知れない。しかし琥珀の色ならばまだしも日本人の眼でダイヤ色というのは不気味この上ない。外国人でも不気味だ。 「情報が少なすぎる、どうしろって言うんだ・・・」 1階にはさしたる情報は無かった、こうなったら2階へ行くしかないのか・・・。しかし、2階はあの腕が消えていった場所だ。待っていても食料もないのだから、飢え死にするのが早いか、狂って死ぬのが早いか・・・。 それだけの違いだというのは頭では理解しているが、踏み出すことがどうしてもできない。 「琥珀、起きてくれ、琥珀・・・」 まだ琥珀は目覚めない。揺すっても、軽く頬をはたいても目覚めない。 ころん 左手から何かが落ちた。軽く握った手に何かを持っていたらしい。さっき拾った小石のようだ。いや、小さな小さな、球状の石・・・無色透明なそれは、ビー玉のように転がると、意志を持っているかのごとく奥へ奥へと転がり、部屋の隅で溶けるように消えてしまった。 もう、この家で何が消えても驚けないような気がする・・・。 「なあ、起きてくれよ琥珀!」 「・・・・・・・・ん」 「琥珀!」 「っ!」 「起きたか?」 「理人?」 「ああ・・・・」
by doitou
| 2005-11-20 20:26
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